2010年10月26日
第二チェツクポイント
クルーと接触して休憩できるのは、すでに通過したロビンソン・フラットと、次の第二チェツクポイントであるフォレストヒルのニカ所だけだ。それ以外の場所では、要所要所でボランテイアのテヴィス・エンジエルスたちがライダーや馬の世話をしてくれていた。ハルは馬の調子を確かめながら、ときおり水分補給などのためにテヴイス・エンジエルスのいる場所に立ち寄るようにしていた。テヴィス・カツプはエンデュランス・ライドの中でも最大級のライドだ。地元ではアメリカン・グレイト・イベントと呼ばれ、ボランテイアとして参加するテヴィス・エンジエルスたちも、自分たちの活動を誇りに思っている。彼らは年に一度のイベントをお祭りのようにたのしんでいた。ライダーにとっても、彼らは本当にエンジエルのような存在だった。馬に餌を与え、ライダーには冷たい飲み物などを用意してくれていた。ある場所では、ひとりのエンジエルが清一にクツキーを持ってきてくれた。「ありがとう。でも、甘いものは、ちょっとダメなんだ」清一は極端に甘いものが苦手だった。「もっと食べなければいけません。クッキーが嫌いだったらサンドイツチをファンタジーS予想買って来ましょうか?」過酷なライド中だけにビリピリとしている清一の気持ちを、エンジエルの優しさがほぐしてくれ、ありがたいことだつた。だが時には馬の飲み水用の汚れたバケツでタオルを冷やし、「あなた、汗びっしょりだから、これで顔をお拭きなさい」と言われて困ってしまうこともあった。いっぽう、我々クルーはロビンソン・フラットを出ると、第ニチェックポイントのフォレストヒルに先回りして待機していた。フォレストヒルにはライドの経過を伝える掲示板があり、誰がどのチェックポイントを何時に通過したかという情報が入手できた。清一とハルがロビンソン・フラットを出発して以降、ふたりの情報はなかなか入らなかった。掲示板には、各ライダーたちがダスティー・コーナーズやラスト・チャンスを通過した時刻が次々と記入されていく。だが清一とハルのゼッケン番号のところだけ、いつまで待っても通過時刻が記載されない。ようやく我々クルーがふたりのライド状況を把握したのが午後五時少し前で、スインギング・ブリッジを渡り、デッドウッドを午後三時二分に通過したという情報だった。
2010年10月26日
鞍を直す
「ありがとう― 本当にありがとう。これでまた走れる、助かった」馬を捕まえてくれた女性ライダーに心からのお礼を言うと、彼女は〈ケーシー〉の手綱を清一に手渡し、颯爽と走り去って行った。清一も、遥か先に行ってしまっているはずのハルに追いつかなくてはならない。ズケーシー〉、もう逃げるなよ」清一は引き馬ではなく、〈ケーシー〉に乗って走ることにした。しばらく行くと、スインギング・プリツジの橋の袂で、ハルが〈コロナ〉を休ませながら待ってくれていた。「鞍を直していたら、〈ケーシー)に逃げられたんだ」「知っている、さっき聞いたよ」清一がスインギング・ブリツジに辿り着く前に、〈ケーシー〉を捕まえてくれた女性ライダーから話を聞いていたらしい。ハルは少し笑っていた。スインギング・ブリツジは名前の通り、大きく揺れる橋だ。馬に乗ったままだとバランスをとるのが難しく危険なため、多くのライダーは馬から降り、引き馬で渡る。清一が馬から降りると、ハルも〈コロナ〉から降りた。ファンタジーステークス予想でつづら折りの難所とは逆に、今度は清一がハルに声をかける。「ハルは馬から降りなくてもいいよ」「ハハハILハルの腕前なら乗ったままでも渡れるはずだが、やはり借りた馬なので安全第一を考えたようだ。さすがにテヴイス・カツプを知り尽くしているだけあり、彼は意味のない無茶はしない。「安全」を重視した、地道でしっかりとした判断力を持っていた。スインギング・プリツジを渡ると、また険しい山岳地帯のトレイルとなる。標高二人??フィートの谷底から標高四三六五フィートのデッドウッドまで急な登りが続く。ハルと清一は馬に跨り、慎重だが軽快に走る。スインギング・プリツジのある谷底は深く鬱蒼とした森の中だ。景色も何もなく見通しも悪いが、デッドウッドに近づき山の頂に出ると、 一気に大パノラマのような景観が目に飛び込んでくる。しかし爽快な景色をたのしむ余裕などない。山頂のコースは極端に道幅が狭く、尾根の両側は切り立った絶壁だ。 一歩一歩、慎重に、確実に歩みを進めなければならなかった。